少し時間ができたので、実家に寄ってから出勤することにした。
夜半から降り出した雨が勢いを増し、朝の通勤路はずぶ濡れの一団に埋め尽くされていた。
靴下の替えをかばんに忍ばせていて正解。
そんなことを思いながら群集のなかに混ざって電車に揺られた。
環状線の駅を降りたとき、晴れ間が見えて雨はすっかりあがっていた。
出発を30分ほど遅らせていればびしょ濡れになることはなく傘も持たずに済んだ。
自営業者なのである。
もう少し賢く生きよう。
そう思った。
実家に着いて、テレビを見る親父のかたわらに座ってしばし過ごした。
これといって特に話すようなことはない。
ワイドショーで気象病が取り上げられていたので、とりあえずわたしはそれについて話し始めた。
すると不思議なことにそれにつられてあれこれ話題が生まれ、わたしは仕事や職員の話をし、そしてこれが忘れてはならない話題の目玉、息子たちの話へやっとのことたどり着いた。
長男について、二男について、ふむふむと話を聴きながら、父にとってそういった話題がいちばん楽しいのだろう。
いつしかテレビは蚊帳の外となった。
そう言えば、とわたしは昔のことを思い出した。
息子たちが小さかった頃、父はよくうちまで彼らを迎えに来てくれた。
公園やら交通科学博物館やら、彼らが望むところへと連れて行き、思う存分遊んでくれた。
母もそう。
彼らがやってくるとコンビニへと率いてアイスを買い、TSUTAYAで彼らが望むビデオをあれもこれもと借りてくれた。
父も母も彼ら二人をただただ愛してくれた。
粗暴でがさつであったから一方では眉をひそめられ疎まれることもある彼らであったが、うちは父も母もその欠点をも含め丸ごと受け入れ、心から二人を可愛がった。
そんな愛情を注がれたからだろう。
長男にしても二男にしても、人目を気にして身を縮めたりといったことがなく、自信満々、誰かと競り合いになって負けることがない。
こいつらバカだ、病院にでも連れて行った方がいい。
もしそんな世界にしか身を置けなかったとしたら、嘲られても為す術ない半熟男のまま成長が止まっていたことだろう。
そういう意味で、雨が降るから晴れが際立つとも言え、だからたまにはぐしょ濡れになるのも必要なのだと悟って、わたしはひとつ賢くなったような気がした。