駅を降り客先へと向かう道中、スポティファイから流れるおすすめ曲に心を奪われた。
画面を確認するとミイナ・オカベのEvery Secondという曲だった。
いい曲がその瞬間、瞬間を特別なものにしてくれる。
何の変哲もない眼前の光景が鮮烈に目に刻まれた。
まれにそんな曲と出合うことがある。
あれは何年前のことだろう。
近所へパンを買いにクルマを走らせた土曜の朝。
FMココロで突如その曲が流れ、ガラスが震えるような繊細かつ力強い歌声にわたしは心を鷲掴みされぷるる震えた。
パン屋に横付けしてすぐに調べた。
ジョアンナ・ウォンのLet's Start from Hereという曲だった。
高槻での業務を終え、ミイナ・オカベとジョアンナ・ウォンを交互に耳に流しつつ帰りの電車に揺られた。
スポティファイがあるといとも容易くこんな贅沢な時間を過ごすことができるのだった。
自宅へと戻る前、駅のスタバに寄って業務の続きに没頭しているとエステを受け終えた家内から連絡が入った。
この日は花の金曜日、どこかで食事しようとのことだった。
では焼肉ということで、わたしは家へと帰ってクルマに乗ってまた駅へと引き返した。
まもなく現れた家内を助手席に乗せ高速を飛ばし向かうは上本町の明月館だった。
昔から通う定番の店である。
が昨年、侍ジャパンが明月館で決起集会を行ったとのことで近頃は混み合うようになった。
繁忙となる前に忍び込み、わたしたちはおいしいところを順々に頼んで最後は冷麺でしめた。
50を過ぎれば肉が必需で、焼肉を食べることが体のケアにつながる。
おいしいものを食べて満たされ、クルマを走らせ帰途につき、ああその昔、息子たちの送迎で能開センター上本町に通った当時の記憶がリアルによみがえりはじめた。
道中すべてに懐かしい思い出が刻まれていた。
そこにミイナ・オカベとジョアンナ・ウォンの曲がやわらかにかぶさっていった。
肉と記憶と音楽でわたしたちは心身すみずみまで満たされた。