その昔、宇宙には水素とヘリウムしかなかった。
うちの事務所も似たようなものだった。
そこに「タコちゃん」が作用して、その作用が数珠つなぎとなる流れが生まれた。
宇宙はいまや多彩な物質によって構成され、その変化のプロセスを短時間でなぞったように、うちの事務所の顧客数はいったいどれくらい増えたのだろう。
そこに別の流れも加わった。
大手の医薬品卸がうちの事務所を推してくれるようになって、そんな虫のいい話があるものかと頬をつねる日々であり、昨今、法律の改正などが目まぐるしく仕事の需要は増えるばかりである。
この日、来月に開業を控えたぴかぴかのクリニックなどをはしごして訪れ、わたしは不思議の念に捉えられ、タコちゃんから始まる「虫のよすぎる」創生の歴史を振り返ったのだった。
一方、従業員にも恵まれたことも忘れてはならないだろう。
これまたわたしが必死になって探し求めた訳ではなく「向こうからやってきた」というのが正しい。
時流に乗り遅れずDX化をいま推進できているのは優秀な女子職員のおかげである。
需要に見合う業務の質を提供できるようになったのは、まさに他力によるものでありわたしはただそこにただ乗っかっただけというのが真相なのだった。
こうしてこの数年で顧客の層が様変わりした。
事務所を谷六に移したことも好影響を及ぼしているように思えるが、この物件を手に入れることができたのもほんとうに降って湧いたような偶然に恵まれての話だった。
谷六に移転し、いつでも気軽に実家に顔を出して親孝行ができると思った矢先、母が他界した。
母を救う必死さがわたしには欠けていたのではといまでもときおり顔を覆いたくなるような気持ちになるが、こんな頼りないバカ息子をいまも引き続き母は応援してくれているということなのだろう。
合点がいった。
不思議を解き明かす鍵はそこにあり、この不思議が証拠、母はいまなお存在していると考えていい。
つくづく思う。
生まれてこの方、ずっとわたしは他力によって構成されているのだった。