この日の夜も家内のヘッドマッサを受けた。
思い出話になって、夫婦でしみじみと過去を振り返ることになった。
いろいろたいへんだったが、まあなんとかここまでたどり着いた。
子育ての手が離れ、家内はいま自由を謳歌している。
わたしも自営業につきまとう難所は過ぎて、なんとか少しは落ち着いた。
いまが人生でいちばんいい時期。
そう夫婦で結論を出す一方、そうとも限らないとわたしは思った。
この3月だけふとしたきっかけで忙しくなった。
土日を召し上げられるだけでなく、濃密に仕事するため、余白の時間もかき集めカフェを巡るといったことになっている。
当初、土日もないなんてと暗澹たる気持ちだった。
週末は夫婦で遠出するのがここ最近の定番になっていて、それが生きがいにもなっていた。
だから肩を落とすように迎えた3月なのであったが、やってみるとこれはこれで悪くない。
さて明日はどこで珈琲を飲みながら仕事しようか。
そんな風に仕事に精を出す時間を楽しみにしている自分がいるのだった。
その昔、始発さえ待ち遠しくて朝の5時前にクルマで事務所に通っていた時期があった。
目一杯仕事して、翌日に疲労を持ち越さぬようサウナに寄って帰宅していた。
あんな暮らしは二度とご免。
一瞬、思い浮かべてそう思うが、その時間に分け入って微細に回想すれば、あれはあれで充実していて、結構楽しんでいた自分を随所に発見することができる。
つまり、わたしはどんな状況であっても順応し、アホみたいに楽しいのかもしれない。
と思ったところで、決して幸せではなかった時間が次々と眼前を掠めた。
勤め人の時代、ああ、あれはろくでもなかった。
飲み屋で憩う時間を除き、どこをどう探しても、嬉しいやら楽しいといった要素が見当たらない。
過去の記憶が出揃って、わたしはより一層深く、自身のことを理解するに至った。
自由こそが幸福。
逃避行にも近い自営業への転進は、その観点でみて百%正しい選択であり、あのときの決断があってこそ、人生の質が上向きへと様変わりしたのだった。