この日、かねちゃんに誘われた。
そうでなければ夜のミナミにやってくることなどない。
大阪星光33期のS山くんもいて、懐かしい。
そこに若き青年を加えて計4人。
かねちゃん馴染の銀まるで座敷にて向き合った。
S山くんの近況から始まった。
彼の息子は優秀で、小さい頃からその名が全国レベルで知れ渡っていた。
灘でも常に10位以内をキープしていたとのことである。
で、東大の理IIIにでも行ったのかと思いきや理Iなのだという。
最近は灘に顕著で、最上位層は医学部を選ばない。
1点差で灘に縁なく東大寺に通う下の息子も医学部を目指していない。
S山くんは笑顔でそう言った。
かねちゃんは何度も深く頷き、そして語った。
数年前ならいざ知らず、いまなら開業を踏みとどまっただろう。
診療報酬のマイナス改定が今後も続く見通しのなか、クリニックが増え競争は激化し、コストも高騰している。
開業というリスクを取らないにしても、勤務医の報酬水準は抑制され、人手不足が深刻化するなか過酷な長時間労働を余儀なくされる。
だから医学部はもはや最優秀層の定番コースとは言えないだろう。
医師への道の魅力が薄れ、本当に心から医療に献身する覚悟を持つ人にしか務まらない仕事になりつつある。
ちなみに、S山くんによれば、息子たちの間ではビジネスで起業するというのが花形、いまの超優秀層が描く理想の未来像だというから、これはこれで希望が持てるのかもしれないとわたしは思った。
これまで医師に集中していた最優秀な人材が各分野に散らばることで、社会全体がより良い方向に向かう可能性があるのではないか。
S山くん自身はいつしか組織のほぼ最上位に上り詰め、かねちゃんはかねちゃんで地域で絶対的な信頼を築いている。
私たちはそれぞれ人生の第4コーナーを回り終え、いま関心の中心は次の世代、ということで一致していた。
この夜、各種貴重な情報を得ることができた。
ああ、懐かしい。 というだけにとどまらない。
友だちという存在の、絶対不可欠性をわたしは夜のミナミで再認識させられたのだった。
よりよく生きるため。
わたしたちは未来へと向け、友だちと会わねばならない。
だから声が掛かればどこへでも。
またよろしくね。