種も違えば味も異なる。
いつもより美味しい。
そうおでんについて言及すると、隣家の奥さんと物々交換したのだと家内は言った。
こちらはサラダで、向こうがおでん。
それで取引が成立した。
家内が作ったサラダは好評を博したようである。
つまり、双方が得したという話であった。
交換することによって全体の価値が増す。
人類を特徴づける太古からの行為によって、わたしは我が家だけでなく隣の家庭の味も堪能することができたのだった。
サラダとおでんに続くのがイクラ豆腐でそれが締めだとあまりにパンチに欠けて腹に来ない。
もう一品所望するとネギや卵や納豆が駆り出され、足らず分を補う定番が前に置かれた。
これで正真正銘の締めとなった。
食後はこの日もヘッドマッサージを家内に頼んだ。
肩から首筋にかけて血とリンパの流れが滞っている。
そう気づいてしまうとどうにかしたくて居ても立っても居られないような気持ちになる。
こんなときは家内の力を借りるに限る。
各部に塗布されたアロマの原液が心地よいマッサージとともに伸ばされていく。
香りも相まって夢見心地となる。
ときおり三階の部屋の小窓が開いて二男が顔を覗かせる。
三階と二階をつなぐ吹き抜けを明日の弁当やら週末の予定といった話が行き交って、それがあたかも遠くで響く子守唄のように聞こえた。
肩、首、頭ときて仕上げは耳ツボ。
器具を使ってツボが的確に押されていく。
疲労困憊気味の箇所では思わず声が出るほど痛い。
が、すべて信頼し身を委ね、その痛さに自分を慣らしていく。
いつのまにか風呂をあがった長男が真横のソファに座ってこちらを眺めている。
痛っと声をあげて目が合うと、バス代など入り用についての話を皮切りに、彼はあれやこれやと話し始めた。
息子の話は聞いて飽きることがない。
ふんふんと家内と一緒になって相槌打っているうち、まもなく耳はポカポカ。
そこが熱源になって全身が温まり心まで温もった。
これで間違いなく朝の目覚めは爽快。
快調な明日が約束されたも同然だった。