家内がびっくりしたような顔をした。
無理もない。
店に入ってきたのがユーミンなら誰だって驚く。
場所は西天満のエスサワダ。
時刻は午後6時50分。
この夜は家内が店を予約した。
当初家内は北新地の善道に行くつもりだったようだが、思いついてすぐ席が取れるような店ではなく断念せざるを得なかった。
それではじめてエスサワダを訪れることになった。
もちろん一見の客であるから、席は入口横付けの最末席。
それが幸いし、店に誰が入ってくるのかをどの場所よりも明瞭に捉えることができた。
ユーミン登場の瞬間を最前列間近で目にできたのだからこの日に限っては末席が特等席となった。
子育て時代、様々な曲を車内で流してきた。
そんななか再生回数でユーミンがダントツでトップだろう。
2012年の年末と言えば長男が中学入試に臨む最終盤。
ユーミンベストをクルマのHDDにダウンロードしたのはその頃のことだった。
そして、以降ヘビロテし家族で聴き続けることになった。
だから数々の名場面がユーミンとともにある。
たとえば2012年の年末の夜、二男を連れ焼肉を食べその帰り、長男を塾でピックアップして御堂筋のイルミネーションのなかを走ったが、そのとき流れていたのはユーミンで、冬の夜の光の光景とその歌声が一体となっていまも家族皆の思い出になっている。
最近では2年前、イギリスへと一人旅立つ二男を空港へと送る際、二男がユーミンをかけてとリクエストして、家族でその歌声を聴きながら、しばしの別れの場面に臨んだのだった。
だから家内がユーミンにひとことお礼を言いたいと思うのも無理はなかったが、それはこのような場においてはルール違反であるように思えたので、制した。
聞けば店の人は「歌い手さんが食事するので、ご配慮を」と言われただけで誰がやってくるのかは知らされてなかったようであった。
が、皆が皆平静を装い、しかし皆が皆、ユーミンのことだけを考えていたのは間違いのないことであった。
UKロックやらラップやら、いまや思い思いの曲を聴く息子ら二人であるがその原点にユーミンがあることに変わりはない。
だからわたしは、長男に対しては「ユーミン現る」、そして二男に対しては「ユーミンなう」とメッセージ送ることを忘れなかった。
ところで肝心の夕飯であるが、聞こえどおり美味しい中華であった。
いい中華は、中華への関心を深める。
次はレイユームンで夕飯を食べようと話し合い、長く思い出に残るであろうこの夜の食事を夫婦で振り返りつつ帰途の電車に揺られた。