日曜は昼前から練習がある。
下っ端だから早く行って準備しないといけない。
そう言って息子は7時に起き7時半には部屋を出ていった。
帰りの着替えがないというのでわたしの洗いたてのシャツを手渡した。
袖を通してジャストフィット。
とても似合っている。
遡ること20年、つまり息子が生まれる前のこと。
結婚式を八日後に控えた誕生日に家内がプレゼントしてくれたシャツだった。
その幸福の黄色いシャツがこんな風に受け継がれていく巡り合わせに感慨を覚えつつ息子の後ろ姿を見送った。
いつでもチェックアウトできるよう準備整えて後、ホテル最上階のプールで泳ごうと家内はわたしを誘うが一日くらいは外を走りたい。
初日二日目とずっと降り続いた雨がようやくあがりつつあり、雲間の向こうに光が控えいまにも姿を現しそうだった。
家内は最上階、わたしは地上。
二手に分かれた。
ベイコートを出て左に折れるとすぐシンボルプロムナード公園となる。
広々と視界広がるなか走って爽快。
小雨が次第弱まって霧雨になって心地よく晴れ間が差した瞬間には心沸き立った。
東京テレポート駅を越え、お台場に出てベイサイドをガンガン加速して走って流す音楽はJ-WAVE、ACROSS THE SKY。
カラダ動かす喜びを思う存分味わう日曜の朝となった。
家内と部屋で合流しチェックアウト。
品川行きのバスに乗るためお台場に向いて歩く。
コスプレイベントでもあるのだろうか。
アニメ装束をまとった女子4人が地べたに座って暇を持て余していた。
なんと家内が彼女らに声をかけた。
それだけでも驚きなのに彼女らを立たせポーズまで要求して写真を撮った。
とてもわたしに真似できる芸当ではなかった。
バスに揺られ半時間ほどで品川に到着。
が、手荷物ロッカーがどこも満杯。
中央改札に一時手荷物預かりのブースがあったので列に並んだ。
ところが予約がないと預かれないと断られ、わたしはすごすご引き返そうとするがここで家内が本領を発揮した。
荷物を預かってもらえないとほんとうに困る。
なんとか助けてもらえませんか。
そこら端っこに置いておいてもらうだけでもいいんです。
家内にじっと目を見つめられ係のおばさんは首を縦に振るしかなかった。
これもまたわたしに真似できる芸当ではなかった。
荷を預けて行き先は新宿。
伊勢丹でしか買えないものがあるのだという。
おとなしく家内に付き従うがどこもかしこも人で混み合いまっすぐ歩くのでさえ困難で、疲弊し加速度的に空腹感も増した。
もう限界というところ。
待ちに待った昼食は家内選定、小田急百貨店8Fのトロワグロ。
スープに始まり、パスタが来て肉がきて魚。
なんとまあ美味しい、ワインもうまい。
食事が済んで蘇り、さあこれからがこの日の主目的。
飯田橋に出て九段下、水道橋へと進んだ。
再来年の息子の受験の際、宿の候補になりそうなホテルを渡り歩き、家内が担当者と向かい合い、間取りや広さ、その時期のイベントや客層、弁当の有無、タクシー呼び出し手数料、そのほかコインランドリーや電子レンジや近くのスーパーマーケットの様子などポイントとなる要素について次から次へと質問を加え説明をメモしていく。
短期滞在であれ入念に調べて結論を出す。
こういった類についてなんでもテキトーに即断するわたしとは大違い。
これもまたわたしには到底真似できぬことだった。
おかげでいいホテルが見つかった。
大阪でネットを叩いてもホテルは幾つも見つかるが最重要な決め手情報については実際に足を運ばないとアクセスできない。
そう実感した。
成果あった時点で任務完了。
地下鉄で四谷に足を向けた。
今年の2月。
受験の際、長男が泊まったホテル界隈を家内が案内してくれる。
名店が軒を連ねる四谷であるからほとんどの話が食べ物のことで占められた。
新幹線車内での夕飯となるので食材を調達することにした。
家内と通りを歩いてあれこれ物色するが、結局、丸正でワイン、生ハム、チーズを買い、名店巻屋で韓国海苔巻きを買った。
品川に引き返し、隣家のため通り一遍の土産を買い、予定の汽車に間に合って人心地ついた。
早速乾杯。
もしかしたらこの時間が最上。
家へと帰る安心感にひたって家内と横並び飲んで食べて散々喋ってあっという間に二時間半が過ぎた。