歳暮の季節がやってきた。
うちに一番乗りで届いたのは山形のりんごだった。
かなり美味しく家内は喜び、おすそ分けして隣家にも喜ばれた。
続いて届いたのは最高級の伊賀肉だった。
星光の大先輩、28期の松井教授が贈ってくださった。
包みを開けたとき、家内は歓喜した。
息子らの血肉になる。
そう思っての喜びであるから母の本能に由来する歓喜と言っていいだろう。
わたしたちはほんとうに恵まれている。
この冬もまたそう実感している。
お菓子が届き、ビールが届き、果物が届き、ハムが届き、肉が届き、事務所にも様々な心が届く。
一寸先は闇というこの世界。
無慈悲な風雨が吹き荒れて、小さな幸福の灯などいつ掻き消えても不思議はない。
だからこそ、温かな思いやりに触れるとそのありがたみが身にしみて、小さな灯でも活気づく。
わたしたちは多くの方々に支えられ、結果、それで暮らしが成り立ち、曲がりにもなんとか明日へと命を繋ぐことができているのだった。
そして、令和3年も最終月。
師走となった最初の夜、インターフォンが鳴って届いたのは高価なステーキだった。
ああ、息子の血肉。
ドクター・オクトパスからの贈り物は母の本能を鷲掴みにし、家内はなすがまま喜悦した。
日が暮れると底冷えさえ感じ、どうやら今年は厳冬を免れない。
そんな寒さに身も心もかじかむなか、伊賀牛と佐賀牛が姿を現した。
この温熱効果たるや凄まじい。
冬支度のため引っ張り出した暖房器具や毛布の類が遠くに霞む。
息子らに美味しい肉を食べさせることができる。
そんなイメージひとつで、母の心は温もりで満たされた。