土曜朝、家内の作ったタコライスを食べて後、二人でジムに向かった。
一時間半ほどみっちりカラダを動かしてやはり爽快。
息子にいい肉を食べさせたいというので牛萬で各種買い、家で昼食を済ませわたしは事務所に向かった。
当初は二男の試合観戦のため午後2時にあやめ池に行く予定だった。
しかし土曜午後に副教科である公民の授業があってクラス全員が必修で受けなければならないとのこと。
授業後、グラウンドに駆けつけても出場機会は限られている。
夕刻以降の予定も考え、わたしは試合観戦を諦めたのだった。
公民の授業終了が午後2時50分。
家内が学校前で待機していた。
まもなく駆け込んできた二男を乗せて阪神高速と第二阪奈をぶっ飛ばし南都銀行あやめ池グラウンドに到着したのは午後3時30分だった。
すぐさま二男はチームに合流したが、僅か10分足らずで試合は終了となった。
少しでもいいから試合に出たい。
そんな気持ちで向かった二男であったが、出番が少なすぎて悔しさが込み上がってきた。
ここまで送ってくれた母にも申し訳がなかった。
試合には当然フル出場するつもりだった。
午後に公民の授業が入っていたが、もともと土曜の午後は部活の時間であり試合が優先される、そう思い込んでいた。
試合前日、部活顧問から試合に出場していいか学年主任に確認を取るよう言われた。
公民を欠席して試合に行っていいでしょうか。
息子は学年主任にそうお願いしたが、答えはノーだった。
見込みが甘かった。
土下座でもして頼み込むべきだった。
悔しさを伝えつつ電話の向こうで二男がそういった。
彼は家内が運転するクルマの助手席、わたしは清荒神末廣寿司に向かう途上にあった。
清荒神の参道をあがりながらわたしは長い話をした。
土下座など軽々しく言うものではない。
勘違いしているかもしれないが、そもそも星光の先生たちは君の親ではない。
親であれば子のためにあれこれ考えて能動的に動く。
親でもない星光の先生が、君のためにひと肌脱いでくれたりすることはないし、そのために要らぬ責任を負うことなど絶対にない。
だから部活顧問は学年主任に聞けと言うし、聞かれた学年主任は役所の役人みたいにただ駄目とだけ言い、公民の先生は歯がゆい思いで授業をするが何か自発的に発案することはない。
そして、貴重な機会が失われた。
親身であることを校是とする西大和の先生なら、相談に乗ってくれ良い解決策を講じてくれただろう。
しかし、君が通うのは星光で、親身や情熱といった言葉が浮きこぼれるような場所であるから、悪いのは他でもない、状況を読み誤った君自身である。
親身であることなど例外中の例外。
それが大人社会のごくごく普通の実像である。
君のためにわざわざ事を取り計らってくれる人など通常どこにもいないのである。
だから逆に、そんな奇特な人と出会えたら奇跡と思って感謝しなければならない。
フル出場をほんとうに心から願っていたのだとしたら、それを実現するための戦略が必要で自ら動かねばならずその画策を政治というのであり、大人はそれを心得ておかねばならない。
まず最初、公民の先生に対しレポートを提出するなり補講を頼むなど欠席を可とする根回しをしておく必要があった。
そのうえで学年主任に公民欠席の代替案を提示した上で試合出場を乞い願うべきだっただろう。
もしそれで駄目と言われても食い下がり、部活顧問の援軍を求め、同じクラスのチームメイトといった仲間を増やし、その試合がどれだけ大事なのか相手に伝わるよう、理解してもらえるよう熱弁を奮う必要があった。
何もせず何とかなるようなことはなく、だから悔いが残るという結果に至る。
駄目と言われてスゴスゴと引き下がった従順さは、星光生の長所でもあり短所とも言える。
およそ機能的とは言えない重いだけの制カバンを数年持ち続け、歩きにくくすぐ破損する制靴を履き続けることで従順さが内面化され、人はいいが出力小さい事なかれ主義の教師らに取り巻かれ、何も変わらないのが当たり前という環境のもと従順さが強化されていくことになる。
決まったことに従う。
これは長所であるが、しかしそれだけだと実に物足りないことだろう。
教師の言葉は生涯胸に残る。
一生の財産と言える大切な学びを得たのだと、そんな対応をしてくださった先生方に心から感謝した方がいい。
話を終え、末廣寿司の店内に入った。
この夜は、やすもと内科クリニックの忘年会。
開院以来、同じ場所。
今回で3回目を迎えた。
スタッフから院長のことが好きとの声がこの日もあがったが、誰にでも好かれ頼りにされる安本院長は、関わる人みなの幸せをまず先に考えるタイプの方であり、そういう意味で星光型の人物と言え距離が近くに感じられる。
だから、冬の寒さ募れば募るほど、この忘年会はことのほか暖かく感じられ、芯からくつろげる。
料理が一段落したとき、何人かがカラオケで歌い始めた。
ふと想像してみる。
ここにOT Bradが登場すれば、破壊的に凄まじいのだろう。
それで長男にメールを送った。
いつ帰ってくる?
即座、26日夜との返信があった。
あれこれ長男とラインでやりとりしていると、家内から写メが届いた。
10分出場のおつかれさん会なのだろう。
二男の大好きなアレグロで食事している場面が写っている。
そして写真が何枚も続いて驚いた。
いったいどれだけ食べるのだ。
食後は御堂筋へと繰り出し二男にイルミネーションを見せるのだという。
彼氏にしたい女ナンバーワン。
家内こそそう呼ぶにふさわしい。
東京で過ごす長男のことを思い、御堂筋のイルミネーションを見上げる二男と家内のことを思い、わたしは忘年会の心地よさにひたった。