明石での業務を終え帰途についた。
この日家内は京都。
フランスで知り合った友だちに合流し食事するのだという。
夕飯の支度はしてある。
家内はそう言うが、おそらくわたしにとって少量。
だから少し食べて帰ることにした。
さて何を食べようか。
楽しい空想と戯れつつ電車に揺られた。
が、突如電車が停車した。
駅でもなんでもない場所である。
案の定、人身事故とのことだった。
「お客様が列車と接触しました」
ここ数日そんなアナウンスが立て続いている。
接触と聞けば軽い感じがする。
一般の歩道でも人混みの中であれば接触は日常茶飯事だ。
だから何気なく聞き過ごしてしましそうになって踏みとどまる。
線路伝い、遠く離れた接触現場に思いを向ける。
世相のリアルが身に迫り背筋に冷たいものが走る。
わたしは絶対生き延びる。
年の境を軽くひとまたぎし次の年もその次もずっと。
そう言い聞かせるが一寸先は闇。
ダークサイドに引っ張り込まれぬよう、日々勤勉、地味に静かに生きていくしかない。
駅に着いたときには空腹も限界近くに達していた。
結局、手近なところ。
駅前の焼鳥屋で少しばかりお腹を満たすことにした。
わたしの方がはるかに早く家に着くはずだったが、そんなこんなで家内とほぼ同時刻での帰宅となった。
家で二次会。
家内が買ってきた赤ワインを開け、バゲットにモリウインナーのパテやレバーを載せ、家内特製の春巻にはパクチーソースを添えて食べた。
来週長男が帰ってくる。
子の帰省は母にとって一大事で、家内の頭のなかは買い出しのことで占められている。
うなぎにフグに肉各種。
いつ何をどの店で買おうか。
そんなことを考えるだけで気忙しくなるようだった。
年末には美々卯のうどんすきが届き、33期竹田くんから広島の牡蠣が送られてくる。
リンゴは取り寄せたし、みかんもまた手に入るだろう。
あとはカニ。
これはかに道楽に行けば済む。
わたしはそう言うが、家内は首を振る。
せっかく帰ってくるのだから、どこかで仕入れて家で食べさせたい。
息子が帰省する初の年末年始。
料理を作り続けてそれが家内にとって幸せで、息子にとっては次から次へとご馳走食べてそれが幸せという食一色に彩られる時間となりそうである。
見渡せば全国津々浦々。
帰ってくる息子のためすべての母が市場に並んで肉を買い魚を買い、腕によりをかけて息子が喜ぶ料理をこしらえる。
年末年始がそんな時間であるのだと子を東京にやってはじめて理解できた。