息子が二人いると忙しい。
朝食の支度をしてから午前中にジムを済ませ昼食を作って家内は食材の買い出しに出かけた。
長男が家にいる間、たっぷりおしいものを食べさせたい。
そうとだけ思うから、普段は並ぶことのない列に加わり辛抱強く順を待って息子のための菓子を買い、肉を買い足し果物を取り寄せる。
そして帰宅し夕飯の仕込みを始めるのであるから、結構ハードとも見える。
それでも息子らが喜ぶから苦であるどころか家内にとって喜びでそんな営為を傍で見ていて、わたしも嬉しい。
夕飯はおでん。
長男とテーブルで向かい合った。
使う昆布とみりんが上物なので出汁がほんとうに美味しい。
素朴ではあってもこれこそが家庭の味。
息子の心に沁み渡り、出汁が具にもっと沁みていくから明日は更に味がよくなる。
息子はゲロルシュタイナーをぐびぐびと飲み、わたしはホワイトホースのソーダ割りをちびちびと飲む。
交わす会話は留学先について。
4年前、長男は単独でカナダに渡り極寒のゲルフに3ヶ月滞在した。
当時の写真を見つつ話すから、おのずと留学の候補地はトロントを筆頭にカナダのオンタリオ界隈を巡ることになる。
下手すればアジア男子など粗末に扱われかねない。
暮らし向きのいい地域であっても、差別的な眼が皆無とは言えないから誰もが楽しく過ごせる訳ではない。
幸いなことに彼はクラスと部活の仲間に恵まれた。
朝と夕、ラグビーに明け暮れ週末はクラスメイトらと過ごした。
ナイアガラの滝への家族旅行に一緒に連れて行ってくれるクラスメイトもいて、長男にとって温かな善意にまみれるような短期留学となった。
皆いいやつばかりだった。
そんな風に長男にとっては留学が最上の思い出として残った。
これは二男にとっても同じだった。
二男については2年ほど前の夏。
単独でイギリスに渡り2ヶ月近くをサマセットで過ごした。
フィールドホッケーの練習に励み、週末は各地へのエクスカージョンに参加し、様々な国に友だちができた。
再会を約束した友だちが各所にいるから、会いに行かねばならない。
彼もまた留学によって内に彼独自のパッションが宿ることになった。
家内が隣家から戻り、わたしと長男の会話の輪に加わった。
留学先にどこを選ぶか。
家内にとっては旅先が決まるのと同じこと。
まるで夢のような話ではあるが、長男の留学先が第二の新婚旅行のようなものとなって、二男の留学先が第三の新婚旅行のようなものになるのだろうか。
そうなればなんと夢のある話だろう。
最初の新婚旅行のときには長男も二男もまだこの世に存在していなかった。
新米夫婦二人でスコットランドまで行って帰ってきただけ。
第二と第三の新婚旅行が実現すれば、そのときはじめて結婚の実感がしみじみと込み上がってくるのかもしれない。
まだこの先、いいことがある。
そう思えば、それがわたしのパッションになっていく。
息子に負けぬよう、まだまだ頑張らねばならない。