分厚い雲が空を覆って日差しは完全に遮断された。
家内にとってはジョギング日和。
それで久々、二人揃って武庫川に向かった。
明け方の雨で芝が濡れ、朝の冷気が地表を這って実に快適。
空と川面に映る分が合わさって、ふわふわの雲に両ばさみになったかのよう。
空気の澄んだ柔らかな空間をちょうど一時間のんびり走った。
ずっと並走していたが残り百メートルとなったとき、「ラン、フォレスト、ラン」と家内がわたしの耳元で囁いた。
その瞬間、家内一人がフォレストのように疾走し、見る間にわたしは引き離された。
家に戻って昼食は家内が仕込んだ特製のサムゲタン。
ビッグビーンズの肉は質がよく、そこで買った丸鶏がサムゲタンにするには格好だった。
実に美味しくかつスタミナ満点。
普段からこんなものを食べていれば、病気など寄せ付けないはずである。
走って食べて、だから午後はまどろんだ。
午後1時。
大阪星光ほしゼミに、きょうちゃんが登壇することになっていた。
Zoomの画面をテレビにミラーリングし、そこに現れたきょうちゃんを家内とともに眺めた。
部屋にはジャスミンの香りが満ちていた。
そこにきょうちゃんの耳馴染んだ声が優しく響き渡って心は安らぎ、いつしか寝入った。
眠りのなか、きょうちゃんの声とジャスミンの香りが結びついて重なった。
ジャスミンの香りはストレス緩和にてきめんの効果をもたらす。
まさにきょうちゃんそのもの。
次にきょう家に仲間入りするワンちゃんがいるとすれば、名はジャスミンで決まりだろう。
きょうちゃんの話が終わった頃合い、力もほどよく抜けて夕飯は楽をしようと話が決まった。
タイ料理がいいと家内が言うので、着の身着のまま大阪福島までクルマを走らせた。
目指すは、モダンタイレストラン・シエル。
店先で注文の品を受け取り、温かいうちに食べようとクルマを飛ばし一目散に帰宅した。
タイ料理が嬉しかったのだろう。
帰りの車中、オーディオから流れる音楽に合わせ家内が松田聖子の名曲を歌い始めた。
クルマに乗ると歌い出す。
それが毎度おなじみの光景となりつつある。
ジャスミンの香りは夜に増す。
平和な日曜が引き続いた。
ハイボールを一緒に飲んでタイ料理に舌鼓を打っていると、長男から家内にあててメッセージが送られてきた。
そう言えばこの日は母の日。
日頃の感謝が述べられ、そこに夕飯の写真が添えられていた。
じっとその写真に見入って後、家内は料理についてのアドバイスを息子に向け連続で送信した。
料理の師匠として息子に伝えたいことが山ほどあるようだった。
食後は『梨泰院クラス』を観始めた。
途中でやめられず、結局最終回までテレビの前に釘付けになろうかというところ、二男が帰宅した。
息子がうちの主人公。
家内は即座にテレビを消し去って、家に漂う弛緩し切った空気をどこか遠くへ押しやった。