懇談があったので家内は塾を訪れた。
1階ロビーに各高校の寄せ書きが掲示されている。
どの寄せ書きにも卒業生を激励する教師の言葉が溢れていた。
字面から学校の雰囲気が窺えた。
その学校に入った場合、子がどのように扱われるのかおおよそつかめるような気がした。
これから中学や高校といった進学先を決めるのであれば、こういった寄せ書きの内容も大いに参考になるのではないだろうか。
真ん中の一番目立つ箇所に、西大和と灘の寄せ書きがあり、他の主だった学校のものもすべて見つけることができた。
しかし、大阪星光のものだけはどこにもなかった。
大阪星光は進学実績にこだわらない。
学校の方針としてそれは二の次のこととして扱われる。
だからなのかもしれない。
教え子を預かってくれる予備校を戦友と捉え協力体制を築く学校もあれば、預かり知らぬ存在として素っ気なく扱う学校もある。
星光は後者のように思えた。
時間となり家内は懇談の場に案内された。
手土産はゴディバのチョコレート。
息子の担任は若き京大生であり、名門北野高校ではずっとトップだった。
奇遇なことにこの担任の所属するサークルのホームページに、長男のかつてのチームメイトの顔があった。
昔一緒に戦った芦屋ラグビーのフルバックは、順調に進学しいま京大生になっていたのだった。
彼だけでなく芦屋ラグビーのチームメイトとの交流はいつの間にかすべてが途絶えた。
せっかく一緒に戦った仲なのであるから同窓会などの企画があってもいいのかもしれない。
いまは接点がないにせよ一応は知った間柄。
交流の継続があっても困るようなことではないだろう。
担任との懇談は一時間にも及んだ。
そのなか家内は意外な事実を知った。
北野高校の先生らは受験指導に関したいへん熱心で親身であるというのだ。
公立の先生は保身的で事なかれ主義の者が多い。
だから、受験に関しても我関せずというスタンスになりがちで積極的には関わらない。
その一方、私学は進学実績が学校の存亡に関わるから必死。
だからありったけの情熱を注ぐ。
家内はそう思い込んでいたから、北野の先生らの取り組みの詳細を聞くにつけ大いに驚いた。
私学の方がよほど他人行儀な関わりに思えてきて、北野が大阪ナンバーワンであることに深く納得がいった。
大阪星光は北野や西大和や甲陽といった進学に心血注ぐ学校に取り巻かれているということである。
遠くない将来、星光もいずれは熱心にならざるを得ないだろう。
肝心の成績については予想していたとおり。
理社に課題は残るものの英数が高いレベルで安定しているから今後の対策が立てやすい、ということだった。
国語についても良い成績とは言えないが、現代文がとてもいいので古漢をどうするかで見違える。
家内から懇談の報告を聞いて思う。
息子らは英数を得意とするが現代文もお手のもの。
実際、この日から小論文の講義がはじまって、開始20分で息子は書きあがり、結局コースを通じ彼だけ別のメニューをあてがわれることになった。
生まれる前から家内はお腹に話しかけ、生まれた後も盛んに話し機会あれば読み聞かせしクルマのなかでは名作の朗読を流し、わたしはと言えば彼らが物心ついたときにはいっとき天声人語をノートに書かせ、出かけるときは朝日新聞の切り抜きを持ち歩き空き時間にそれらを読ませ意見を述べ合った。
読めて書けるようになるのも当たり前という話であった。
そして、スポーツをはじめ趣味も豊富でいろいろなことに取り組み見聞も広めてきた。
だから読むのも書くのもテキパキ速くかつ書く内容が面白い。
仕込まれた種はいつか芽吹いて花開く。
学業や仕事の合間、二人が日記でも始めればと期待が高まる。
それを読むのが楽しいと今でも分かるので、その日が待ち遠しくて仕方がない。