夕刻、JR志紀駅で降りて客先を目指した。
まだ日が高く直射を受けると暑いので日陰を選んで歩を運んだ。
随所で金木犀の香りに行き当たりそのたび陶然となりながら、民家が軒を連ねる路地を抜けると空港に至り、この周辺は製造業や建設業などの中小企業が群居する。
日中の業務も終盤。
終日労務に勤しんだ男衆の顔はどれも和らいで、くつろいだ雰囲気があたり一帯に漂い始めていた。
砂塵が薄く積もったデスクで向かい合わせ。
一時間ほど事業主と打ち合わせし、これにて業務終了。
駅まで送るという申し出を遮って、またぶらり、知らぬ道を選んで駅まで歩いた。
気候が許すなら歩くほうがわたしにとって好ましい。
特に業務終了後は自身を縛っていた何かがほどけ、その余白の風通しが心地よく、それを存分に味わうには歩くに限る。
途中、弓削神社があったので一礼して鳥居をくぐり社殿に向かって頭を下げて手を合わせた。
感謝せずにはいられない。
そんな人生であるから、神社があればこのように足を止めることになる。
思えばうちの祖母がそうだった。
神様と見れば頭を下げて手を合わせた。
その姿がわたしのなかに刷り込まれて幸い。
社殿に向かう私を遠くから眺め、そうそうと頷く祖母の姿が頭に浮かぶ。
志紀駅のホームにあがると、電車が出たところだった。
もし神社に寄らなかったら間に合っただろうが、電車よりも神社の方がわたしの中で重きを占めるから、これでよし。
以前とは大違い。
天王寺で途中下車して飲み屋に立ち寄る、といったことはせず、まっすぐ家に帰った。
飲むときは大いに飲んで、普段はビール一缶。
そう決めたから、この夜もそのようにし家で家内の手料理を楽しんだ。