いま思うと信じがたい。
特に草木も凍るような真冬の朝。
かつてわたしはそんな日にも4時半に起き始発で事務所に出勤していた。
この朝型スタイルについて、アキオは呆れて言った。
おれらの仕事は朝ゆっくりできるんがメリットちゃうん。
しかし、わたしの朝はゆっくりとは無縁だった。
朝が近づくと夢のなかに仕事がズカズカと押し入ってきた。
動悸が早まり寝汗も生じ、もはや寝ていられないという状態に至って悪夢から逃れるように飛び起きた。
クスリが切れたみたいに息せき切って、事務所で仕事を服用してようやく平穏が訪れた。
このように選択の余地なく、早起きを余儀なくされていたのだった。
最近になってようやく、つまり周回遅れで、アキオの言ったことが理解できるようになった。
習慣の影響は根強く、いまも朝4時半になれば目が覚めるが、心安らか二度寝する。
6時半まで寝て、朝食をとりながら家族と語らい8時を過ぎて家を出る。
朝の空気がじんわりと地に行き渡るのと足並み合わせ、ゆったり動いて呼吸して居心地がいいものだから家を出るとき名残惜しい。
一目散、事務所へと駆けた当時とは大違いである。
今朝、朝食を食べながら二男が言った。
「おまえ、おかんの話をするん、これで3回目やで」
塾の友だちと喋っていて、そう言われたという。
まるでマザコンを咎めるような物言いであるが、うちの家に泊まりに来た友人らなら知っている。
うちの家内は面白い。
彼らの間で、おかん人気ランキングNo.1。
だから、おかんの話題抜きには話が始まらない。
塾の友だちもまた受験が終わればうちに泊まりに来るだろう。
直で見れば話が早い。
今度は彼の方から、「なんかおもろいおかんネタないん?」。
そう聞くことになるはずである。