夕刻、人もまばらな道頓堀を家内と歩く。
家内が急に思い立って電話し、すぐ予約が取れた。
一昔前なら考えられないことだった。
4階でエレベーターを降りると、視線の先、二男の姿が見えた。
一番奥の上座にそれが当然といった風に座っていたから風格が感じられた。
わたしと家内はその前に並んで座った。
瑞雲というコースを頼み、たっぷりカニと戯れる時間が始まった。
やはりカニを食べるなら、かに道楽。
そこら温泉で食べるよりはるかに美味しい。
うまい、うまい。
そう唸りつつ食べ始め、かなりの分量であったにもかかわらずコース以外の料理も追加したから最後には苦しいと思うほどお腹がいっぱいになった。
この日の昼、二男はロッカーに置いた荷物を引き取りに学校に寄った。
幾人かの担任教師と顔を合わせたが、いつも同様、やりとりは素っ気なく終わり、会話は数秒にも満たなかった。
何も聞かれず、だから何も話さない。
一緒に帰るくらい仲のいい先生もいたが、それは塾での話だった。
同じ電車に乗り合わせると見るや慌てて隣の車両に移動する教師もいた。
学校で言葉を交わす教師は部活の顧問に限られた。
ホッケーとは無縁、名ばかり顧問とは目も合わさなかった。
無事卒業となり、そんな年月にもようやく終わりが訪れた。
先日、英検一級に合格した長男はすぐに中高の英語の先生に報告の連絡を入れた。
喜んでもらえ、おまえはすごいと中高のときと同じように激励された。
そんな話を聞いてわたしも家内も胸が熱くなった。
何ごとも巡り合せ。
恩師と呼べるような人物にそうそう出会えるものではない。
ちなみに、わたしと息子はよく話をする。
この日、二男はわたしに言った。
親父に教わったことは、映画を観る喜びと風呂の歓び。
まさしくそれこそが人生の醍醐味のツートップ。
正しく学んだ息子は、わたしにとって良き教え子と言えた。
では久々、温泉に行こう。
家内が発案しすぐに話が決まって予約も済んだ。