高熱が出て母がうずくまっている。
妹から伝えられる詳細を聞いて水曜夜、急ぎ親元に駆けつけた。
近所の病院の診察だけでは心許ない。
一刻を争う状況なのかもしれない。
救急車を呼ぶべきか。
が、素人同士が話し合ったところで埒は明かない。
金城先生に電話した。
症状を伝えると、いま流行りの胃腸炎の可能性が高いとのこと。
もらったクスリを服んで安静にしていれば症状は落ち着くはず。
救急車は呼ばなくていい。
明日朝一番でおれが行く。
前夜から降り続いた雨は激しさを増していた。
昭和の日の朝、親元にて金城先生の到着を待った。
かねしろ内科クリニックからクルマで20分ほど。
9時半少し前、玄関先に軽自動車の影が見えた。
停めるところがない。
そう見てとるや否や、軽自動車は一気にバックして近くにあるパーキングに後ろ向きのまま吸い込まれていった。
なんというハンドルさばきなのだ。
玄関先に出て、わたしはそのドライビングテクニックを目の当たりにして思った。
医師としての機転と力量がその一場面に凝縮されているといってよかった。
看護師を一人引き連れ、カネちゃんがさっそうと現れた。
医者がわざわざ家まで来てくれる。
しかも祝日。
朝一番。
天気は雨。
家族みな感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。
テキパキと状況をみて、かつての同級生が母を処置してくれた。
同行の看護師さんはテキパキして有能。
親身に母に話しかけてくれ、その温かさが母を安心させた。
病身であることも忘れ母が看護師さん相手に世間話をし始めたから、その様子を見てほっとしたのだろう妹の目には涙が浮かんでいた。
医者は神様。
その仕事ぶりに間近に接し、わたしは素直にそう思った。
日頃、隣り合って寿司を食べ酒酌み交わす大阪星光33期の同級生は、神様だったのだ。
父も大いに安堵した。
いざとなれば金城先生が駆けつけてくれる。
そう思えることが何より心丈夫なことだった。
かねしろ院長を乗せた「かねしろ号」が去ったあと、家族揃って胸をなでおろし母を囲み、しばらく後わたしは雨のなか帰宅した。
家で家内にカネちゃんの話をし、終始心穏やか。
安心感とともにずっと家で過ごすことができた。
カネちゃんのおかげ。
感謝せずにはいられない。