先月に続き、家内が東京に赴いた。
母である間、母であることにベストを尽くし、母であることを存分に楽しむ。
家内はそう考え、ぜひそうすべきだとわたしも意見を同じくする。
家内が東京に滞在する間、わたしは留守を預かる。
在宅ワークの際は、好きな音楽を流し、家でいちばんいい場所、リビングに陣取る。
でんと座って左右の窓から入る風に季節を感じ、天窓の向こうに広がる空に身を委ねるようにして時を過ごす。
体感が内奥の感覚にフィットするからだろう。
リビングだと仕事するのでさえ心地良い。
昼前になって家内から写メが届き始めた。
虎ノ門で長男と合流し、まず先に向かったのは「KASHIYAMA」だった。
肩幅が普通ではないから採寸してもらう必要があって、それに家内が付き添った。
長男単独なら大雑把な買物になってしまうが、家内がいれば細部まで行き届く。
スーツのオーダーを終えて次の行き先は大学の図書館。
家内は大学までの道中を共にした。
バスを降りるとちょうど真ん前に中華の名店「中國飯店」があった。
昼を食べよう。
そう誘うと長男も応じた。
北京ダックとフカヒレの入ったコースを家内が頼もうとすると長男が制した。
ゆっくりする時間はない。
構わず家内はコース二人前を注文し店員に言った。
急いでいるので、ぜんぶいっぺんに持って来てください。
そして家内は運ばれてきた料理のほとんどを息子に進呈するのだった。
食後、三田キャンパスを一緒に歩いた。
女子大生にでもなったみたいに長男と過ごし、そのひとときを家内は満喫した。
息子と図書館で別れたとき、二年前の大学受験の頃の記憶がしみじみと蘇ってきた。
なんとか無事、ここまで漕ぎ着けた。
家内は感慨にひたった。
懐かしの「丸正」で夕飯にするための買物を済ませ、ホテルにチェックインした。
時刻は夕刻。
神宮外苑の景色を眺めながら、ふと思いついて家内は電話を掛けた。
そのとき、わたしは家。
買ってきた大起水産の寿司をいままさに食べようとするところだった。
家内からの電話をスピーカー設定にし、遠く離れた地から届く二万語に耳を傾けわたしは寿司を頬張った。
電話で話しながら家内はワインを飲み、わたしは寿司の後、スーパーで買ったチーズケーキを食べた。
そうこうしているうち、午後8時。
図書館をあとにする長男から写メが届いた。
コロナの影響で図書館の閉館時間が早くなったからこれから家に帰って続きに取り組むという。
こっちにきてホテルで続きに掛かればいい。
家内はそう誘うが、長男からの返事はワンワードだった。
またね。
次は7月。
今度家内はどこで長男と合流するのだろう。