この土曜から多くの事業所が夏季休暇に入る。
わたしも世間並みに休む予定であったが、初日は仕事に充てることにした。
いつもより早く家を出て、JR神戸線で南森町まで行き、コンビニでサンドイッチを買ってから谷町線に乗り換えた。
道中、様々なことが頭に浮かんでは消えていく。
改札を抜け地上に上がったとき、どうした訳か半世紀近くも昔の光景が眼前に浮かんだ。
幼少の頃、週末になると祖父が自転車で迎えに来て、遊びに連れて行ってくれた。
業務用の自転車の後部座席は大きく頑丈で、前の方に弟が座りカラダをひっつけるようにしてわたしも尻をねじ込んだ。
車輪に足を巻き込まれぬよう兄弟揃ってなるべく足を広げてぶらぶらとさせた。
いま思えば危なっかしいが、わたしたちはいつも大はしゃぎでそれを楽しんだ。
下町の小さな家の前で、弟に続いてちょうどわたしも座ったところ。
左手後方、若き母が手を振ってわたしたちを見送っている。
わたしが幼少なので、母はまだ二十代だろう。
祖父の背中があり、カラダを密着させて真ん前に弟、そして左手後方に母の笑顔。
その一場面が鮮明によみがえり、前後はなくてその一場面しか浮かばないから一枚の絵のようなものであり、それが絵だとすればその完璧な幸福度から言って人生を代表する究極の一枚と言ってもおかしくなかった。
通勤の途上、しみじみとした思いでわたしはその光景を目に焼き付けた。
このように、ときおり過去の小窓がふと開く。
もしこの日、異なる過ごし方をしていたら、記憶の底の底に眠るこの光景との再会はなかったかもしれない。
そう思えば、仕事に出て幸い。
あの頃、母は若く、わたしたちチビっ子は笑顔満面にて愛されていた。
記憶がそう明瞭に物語っている。
そう言えば、もうすぐお盆。
祖父母も母も帰ってくる。
当時がどんなものであったのか。
できれば詳しく聞いてみたい。