寒波が居座り日本列島は引き続き凍てつく寒さに見舞われた。
朝、着込んで走った。
走るとすぐに汗ばみ陽の光にほんのり暖かさも感じたが、走り終えると汗が冷えひどい寒さに打ち震えることになった。
こんなときはサウナだろう。
帰宅し家内を誘ってクルマを芦屋の水春へと走らせた。
買物を先に済ませようと家内が言うので、上宮川の交差点で右折してビッグビーンズを訪れた。
店員のなか見知った顔が幾つもあって、みな活気に溢れていた。
贔屓にしていた店が大繁盛している。
その様子を目の当たりにして、なんだか嬉しくなった。
ビッグビーンズを後にし芦屋川沿いを南下した。
阿部レディースクリニックを左手に見て左折して、パティシエ・エトネに寄ってそこでケーキを3つ買った。
水春の駐車場にクルマを停め、家内と分けて食べ美味しい美味しいと車内で声をあげた。
3つとも平らげてから男女二手に分かれた。
日曜日の真っ昼間。
予想どおりサウナはそこそこ空いていた。
時間をかけてサウナで汗を流し、後半は漢方ミストでくつろいだ。
すりガラスに近いところに座っていたから、差し込む陽によってミストの粒がキラキラと光って見えた。
それでふと頭に浮かんだのがマウンドだった。
ランナーを背負い一点もやるまいと気を吐く自分がいた。
ああ、なるほど。
わたしはかなりきつい状態に置かれていたのだとミストで緩んで、自身の業務の全容が見渡せた。
この状況は何なのか。
それを理解するのにスポーツの場面が役に立つ。
まさにピッチャー。
お鉢が回ってそんな役回りを余儀なくされて、わたしはこのところ連戦連投で戦々恐々とし続けていたのだった。
痛打を浴びるのでは、連打になったらどうしよう。
そう狼狽え、しかし表情は崩せない。
弱気が見えれば、一気に形成が崩れて試合がぶち壊しになってしまう。
そのように孤独に気負ってわたしは業務と対峙していたのだった。
ミストで緩んで自身の有り様が視覚化され、そして肝心なことに気が付いた。
打たれたところで、それがなんだというのだろう。
マウンドに立つのは全人生のうち、ほんの僅かな一場面に過ぎない。
主たる場所は他にあって、痛打を浴びたところで揺らがない。
帰宅し、鍋を挟んで家内と向かい合った。
家内はケンゾーの白ワインを飲み、わたしはノンアル。
酔うごとに家内は饒舌になって、このほど買ったばかりの旅行雑誌のページをめくって見せた。
あと何年かすれば学費も仕送りも不要になる。
そうなれば毎週夫婦で旅しよう。
そんな話になって、行き先を挙げればキリがない。
日本だけでも北は北海道から南は沖縄まで魅力あふれる街がふんだんにある。
想像するだけでも、ああ楽しい。
しかし、なにせシラフ。
明日は月曜、またマウンドに立たねばならない。
ふっと、そんな思いが頭をよぎった。
が、もはやわたしはマウンドを見下ろす立場でもあった。
打ち込まれたって、それがなんだというのだろう。
マウンドには行って帰ってくるだけで、ここが本拠。
わたしだって家内だって息子たちだって、なにかあればここに帰ってくればいいだけのこと。
それだけの話なのだった。
北の端の街から回ろう。
そう言いながら、家内のグラスにワインを注いだ。