移転前、結構な頻度でサウナに寄ってから帰宅した。
新しい事務所に移った後、帰途に適当なサウナがないから足が遠のいた。
が、ハードな業務に勤しむ者にとってサウナは不可欠。
この日、思い立って寄り道できるサウナを探すことにした。
調べると、桜川の駅近くにサウナがあった。
これがいい。
帰宅のルートは、南森町回りと野田阪神回りの二種類ある。
後者を選べば通り道ということになる。
よくある大阪の銭湯の雰囲気が昔の記憶を呼び起こした。
小さい頃は祖母や母らと一緒に風呂に行った。
なんと平和な日々であっただろう。
小一のとき親父にカラダを洗う順番や仕方を教えてもらった。
以後、弟と二人だけで風呂に通えるようになった。
昔教わったやり方が身についている。
そのままの仕方を四十年以上毎日欠かさず踏襲しているのであるからこの様式に父が宿っていると言ってもいいだろう。
やはり仕事後のサウナは格別であった。
全身清々しく心身軽やかに帰宅する。
夕飯の支度が整っていてメニューは牡蠣&白子鍋だった。
わたしはノンアル、家内はワイン。
家内の二万語に耳を傾けた。
この日家内は、芦屋の阿部レディースクリニックに寄ったあと、レクサスの販売店に向かった。
171を走って到着し、駆け寄ってきた端正な顔立ちの男性に「リモコンキーがちゃんと作動しないんです」と言ってカギを手渡した。
恭しくも男は言った。
申し訳ありません、ここはポルシェを取り扱っており、レクサスはこの場所から二号線沿いに移転したかと思います。
驚いて家内はあたりを見回した。
確かに言われたとおり視界に並ぶのはポルシェばかりだった。
小っ恥ずかしいにもほどがある。
さしもの家内もたじろいだ。
「ごめんやして おくれやして ごめんやっしゃ」、
そう胸のうちで呟きながらクルマをターンさせ、「ポルシェもよろしくお願いしますね」との言葉に愛想笑いし、その場をそそくさと立ち去った。
そんな様子を思い浮かべて、ああ、恥ずかしい。
長年連れ添った夫婦はこんな恥ずかしい思いも共有するのだと思いつつ、同乗していなくてほんとうによかったとわたしはほっと胸を撫で下ろした。