外出していた家内が、握りと巻きを手に携えて昼に戻った。
事務所の自室で向かい合って昼にした。
窓から吹き込む風に誘われて、話題は一足早く、夏の旅先の地を巡った。
楽しいことを考えると疲れが癒える。
お腹も満ちて心ウキウキ、実に有意義な昼休みとなった。
わたしは午後もデスクワークに勤しみ、家内は皆の仕事を手伝った。
まもなく夕刻。
皆より先に業務を切り上げ、夫婦で揃って帰途についた。
金曜の夜であった。
何か食べて帰ろうと話し合い、ふと思いついて昔なつかしの店に立ち寄ることにした。
旧事務所近くにある店で、先の10年の思い出がそこにたっぷりと詰まっている。
旧事務所に移転したのは長男がちょうど6年生になろうとする春のことで、そして、二男が大学入試を無事に終えた春にその事務所を退去した。
折々、夫婦でその店にて食事した。
いわば作戦会議の場とも言え、もっぱら話す内容は受験にまつわるハラハラドキドキ混じりのものだった。
久々に訪れ、流れる昭和歌謡を家内が時おり口ずさみ、懐かしさにひたって食事した。
長男と二男、それぞれの節目について振り返り、次第、話は未来へと向いていった。
新事務所に越して一年が過ぎたところであるが、仕事が増えて、はや手狭感が生じてきた。
人も必要で、どういうめぐり合わせか腕の立つメンツに恵まれそうで、具体化すれば我らヤドカリはまた別の貝殻を探さなければならない。
いつだって夫婦で一生懸命、大真面目に過ごしてきたから過去から未来へとつながる話はどの地点を取っても中身濃厚なものとなる。
何はなくとも、互いに手応えもって語るべき話が随所に敷き詰められている。
物質的には恵まれなくても、時間的には豊かと言えて、まあそれでいいではないか、とわたしには思える。
食事を終え、近くの神社へと足を向けた。
日は暮れかかり拝殿は閉じられていたが、お賽銭を入れ、戸の向こうの神様に手を合わせた。
想うのは息子たちのこと。
いったいこれまで何度ここで頭を下げてきたことだろう。