もう大学生であるから、着の身着のままという訳にはいかない。
春が到来するこの季節の変わり目、東京で暮らすには新しい装いが必要となる。
それで家内は二男を伴い箕面の問屋を訪れた。
血気盛んな息子らにとって衣服はまだまだ消耗品の域にある。
だから、ほどほどの品質でほどほどの価格というのが適正となる。
われら下々、問屋があってほんとうに助かっている。
長男とも連絡をとりつつ春物の服やかばんを選び、二男がスーツも必要だと言うので店のおばさんに採寸してもらった。
二男のカラダにメジャーを当てておばさんが驚いた。
肩幅が広く胸板が厚い。
ケツとモモも普通ではない。
一見、細マッチョに見え、鍛え方が異なるから各パーツが隆々として頑丈。
まさに男っぷりが視覚化されているようなものと言え、おばさんは感嘆し通しだった。
こうなると家内は嬉しい。
この体躯は長い鍛錬の賜物。
二男については小学一年でフットサル、小学二年からラグビー、中学一年からフィールドホッケーに勤しみ、日夜カラダを鍛え続けてきたからこそ、このように仕上がった。
が、家内からすれば食事の成果。
幼少時から料理の手を抜くことなくたっぷりと食べさせてきたからこうなった。
そう思うから、息子の体躯に誰かが目を見張るなら、自分が褒められているも同然ということになるのだった。
そしてまだ引き続き、息子らにしっかり食べさせたいという家内の熱意は衰えることがない。
実際、息子が家にいれば、あれやこれや料理に精を出し台所で過ごす時間が長くなる。
そういう意味で家内にとってキッチンは息子のことを想う場所ということになる。
逆風が吹きつける急勾配を這って進んで、しかしそれでも、おおむねは平和で平穏な日々だった。
しっかりと子育てに取り組めて、家内は母としてほんとうに幸せだったように思う。