昼を前に家内が事務所にやってきて女子職員らを引き連れた。
「ランチに行ってきます」
輪唱するかのように声が響いて、明るく楽しげな空気が事務所に残った。
実に微笑ましい。
職場では忙しく「愛想」を欠く。
そんなわたしの不足を家内が補って、よい雰囲気を中に吹き込んでくれる。
やはりありとあらゆる場面においてわたしは家内に助けられている。
子育て、食事の管理、駆け出しの頃の仕事の雑用など、どれも家内がいなければ立ち行かなかった。
そして、これまでどおりこれからもその力に頼ることになる。
現在進行中の話で言えば、秋の各種遠出の計画がそうだろう。
家内に任せておけば予約は万全で、ひとりでに訪れる店が決まってハズレがない。
わたしからすれば座して楽しみだけが増えていく。
ちょうどこの日、長男が内定式の日を迎えた。
いろいろと朝から写真やメッセージが息子から送られてきて家内が言った。
就職活動ひとつとってもエピソードに満ちていた。
いろいろなことを振り返り、その断片でもネットに書けば誰かの役に立つのではないだろうか。
そうかもしれない。
就職活動だけでなく、子育ての過程で取り組んだ様々なことから、何か意味ある情報が抽出できるのではないだろうか。
例えば小学生の頃に通わせた芦屋ラグビーがそうであろうし、中学受験もそうだろう。
それだけではなく西大和や大阪星光についても、また子らが励んだスポーツについても題材が山ほどあって、そのほか大学受験でもうひと山、附随して文系法学部選択の経緯についても話は尽きず、慶應や早稲田の話に東京の下宿生活などについてもうひと山、そのように盛りだくさんな話題に溢れ、だから、そのなかには良きにつけ悪しきにつけ有用な情報が眠っているに違いない。
わたしがそう言うと家内は頷いた。
しかし、いくら情報の宝庫であっても、家内にはそれらについて書くいとまなど微塵もない。
先週から今週に限ってみても、韓国料理やインド料理や和食の料理教室に通い詰め、もちろん習って即座に材料を買い集めて実践して作り、引き続きヨガを欠かさずジムにも通い、たまに事務所にも顔を出す。
このように、何かを振り返るには家内はまだまだ忙しすぎるのだった。
だから、代わりと言ってはなんですが、これまで同様こっそり内緒、家内からもたらされる情報を頼りにわたしが密か静かに日記をしたためるということになる。