約束の時間が過ぎた。
家内はまだ帰ってこない。
雨が降り続いていた。
クルマがなければジムに行けない。
夕刻、倦怠感もあった。
今日は休もう。
そう思うわたしの頭に近所の居酒屋が浮かんだ。
冷えたビールに香ばしく匂いたつ焼鳥。
そのイメージが膨らんで、さあ、繰り出そう。
玄関前で靴を履いたとき、眼前をクルマのライトが照らした。
家内だった。
嗚呼。
わたしはビールと焼鳥のイメージをかき消さねばならなかった。
家内が運転するクルマに運ばれジムへと向かった。
わたしはふさぎ込んだように、未練たっぷり、雨滴が打ちつけ曖昧模糊とする窓外に見えるビールと焼鳥を睨めつけた。
雨だったからジムはガラ空きだった。
ほぼ無人とも言えるプールで悠々と泳ぎ、この時、ああジムに来てよかったと心から思った。
泳いで気持ちよく、筋トレしてサウナに入っても同様。
ジムの工程のラストはマッサージチェアで、それらが並ぶエリアに行くと、家内が先に横たわっていた。
隣に腰掛け夫婦でくつろいだ。
横のチェアの家内の姿が視界に入る。
のんびり心から安らいでいる様が見て取れた。
この光景こそ、夫婦の図。
若い頃には思い描かなかったが、いまのわたしの結婚観を絵にするならこの図に凝縮されている、そう思った。
帰宅し、前日に続きノンアルで軽くあっさり夕飯を済ませた。
焼鳥屋で過ごすよりはるかに良い夜となった。
いつも同様、軌道修正してくれたのは他ならぬ家内であった。