日曜日は終日雨。
予報はそう伝えていたが、朝、空を見ると晴れ間がのぞいていた。
降り始めるまでまだしばらく天気は持ちそうだった。
それで早朝、外へと飛び出した。
広々とした海岸を視界に捉えながら一時間ほど走った。
立ち並ぶ樹々のどこかに潜んでいるのだろう、野鳥の鳴き声が耳に心地よく、風はやや冷たいが、降雨の前の空気には潤いがあって朝の匂いの清涼さがより一層際立って感じられた。
五感すべてが癒やされた。
走り終えて温泉につかって更に癒やされてから、朝食の時間を迎えた。
個室に用意されたメニューはシンプルであったが、静かにゆっくり味わえて、とても豊かな食事となった。
食後、宿を出てクルマを丹波篠山に向けた。
家に至るまでのちょうど中間地点であったから、休憩がてら立ち寄るのに格好の場と言えた。
道中、ときおり雨に見舞われたが、傘が不要となる時間の方が多かった。
町を曇り空が覆い、その鉛色が城跡の町の風情をいや増しにした。
夫婦でぶらり歩いて、町が醸す年代ものの情緒を心ゆくまで味わった。
昼はぼたん鍋の店を予約してあった。
「いわや」は人里離れた、登山道の傍らといった場所にあった。
雨にけぶって木々が静か艷やか色づいて、周囲を見渡しているうち地上とは別の世界に迷い込んだといった感にとらえられた。
囲炉裏を前にあぐらで座り、店の流儀に従って肉と野菜を煮て、夫婦で分け合った。
食べていつも思う。
イノシシの肉はなんでこんなに美味しいのだろう。
ご飯でしめて、しかしまだ心が残って、うどんも追加した。
カニに勝るとも劣らない大満足の昼食となった。
雨が降ったり止んだりするなか、霧の立ち込める山間を走って家へと向かった。
助手席に座る家内が日本歌謡の懐メロを歌って、運転しつつその歌声をBGMにしていたが、途中からイントロクイズの様相を呈した。
さあ、この曲は?と家内が出題し、わたしは出だしを僅かに聴いただけで、ことごとく正解していった。
家内は驚き、わたし自身も驚いた。
人には思いがけない才能が眠っている。
京丹後を旅してその帰途、わたしは自身の才に思いがけず目覚めたのだった。