迎えに行こうか。
クルマで帰途に就く家内からメッセージが届いた。
時刻は午後4時。
業務続行中でいつ終わるか見通しがつかなかった。
だから「先に帰って」と返信した。
午後5時半過ぎに業務が完了した。
出先の事業所から伊丹駅まで20分ほどだったから、歩くことにした。
昼はまだ暖かかったが、日暮れ時になって気温が一気に下がった。
冷風がカラダに堪えた。
アップルウォッチの表示を見ると気温は0℃。
そりゃ寒いはずである。
行程の半分も行かぬうち雪が降り始め、歩を進めるごと雪の量は増していった。
駅に着いたときには安堵した。
ああやれやれ。
あとは帰るだけ、のはずだった。
もうすぐ尼崎駅というところで、電車が停まった。
アナウンスもないから不吉な予感がした。
不安が高まってそれがピークに達しかけたとき、「電車が動きます、ご注意ください」とアナウンスがあった。
ああ、助かった、そう思った。
尼崎駅に到着し、神戸線のホームへと移動した。
が、そこは人で溢れかえっていた。
ホームに停車している車両を見ると、すし詰めで人が車両からはみ出していた。
わたしは電車に乗るのを諦めて、改札を出てロータリーに向かった。
雪が勢いを増すなか、タクシー乗り場には長蛇の列ができていた。
アプリでタクシーを呼ぼうにも時間がかかり、この寒空のもととても待っていられない。
誰もが切迫しているように見え、自分が災害地域にいるように思えた。
と、停車する一台のバスに目がとまった。
行き先は隣の駅だった。
これに乗れば少なくとも一駅分はゲインできる。
迷わずわたしは列に並び、すし詰めの中にカラダを預けた。
帰宅ラッシュで道路も混んでいた。
のろのろと進む車窓から、雪降る夜の街路を息を潜めてじっと眺めた。
窮屈さが苦痛極まりなく耐えがたかった。
駅に着いたときには歓喜した。
喜びついで、状況の改善を待ってどこかで一杯やろうとの考えが浮かんだが、改札の発着表示によれば電車の到着はまもなくだった。
多くの人が立花駅で降りるはずだから、ここから乗ればすし詰めではないだろう。
そう見通せたから、一杯飲むのはやめホームで電車を待つことにした。
やってきた電車は案の定、超満員だった。
そして思ったとおり多くの人が下車したが、それでも超満員には変わりなかった。
乗るしかなく、わたしは意を決してカラダを押し込んだ。
なんとか耐え凌ぎ目的の駅で降りたとき、なんて素晴らしい街なのだろうと地元への愛が込み上がった。
帰宅すると、いざという場合に備え家内はお酒を飲まず待ってくれていた。
夕飯は熱々の豚しゃぶで家内と我が家で飲むお酒の味は格別だった。
窓の向こうをみると、いつのまにか外は一面の銀世界に様変わりしていた。
家内と共に外に出た。
クルマの窓に雪の上から息子二人の名前を家内が書いてそれを写真に撮り、ウサギに似せた小さな雪だるまを作ってそれもまた写真に撮った。
その写メを送ってすぐ息子たちから返信があった。
アップルウォッチをみると、表示は零下2℃となっていた。
しかし寒いとは感じなかった。
同じ時刻、電車が動かなくなり、多くの人が帰宅できず車両内やホームで足止めを食っているなど、そのときわたしはまったく知らなかった。
もし外で飲んでいれば、わたしも帰宅難民となっていたに違いなかった。
家で女房が食事を作って待っている。
だから、さっさと家に帰るのが正しい。
そう切に学ぶ雪夜となった。