面識はあった。
しかしいつか仕事を手伝うことになるなどまったく想像もしていなかった。
ほんとうに人の縁というのは不思議なものである。
この日、仕事で遅くなったので、帰途、寄り道した。
一杯飲みつつ一日を振り返り、だんだん豊かになっていく自分の人間関係について感慨にふけった。
やはりわたしたちはツイている。
そう思うよりほかなかった。
先日、東京の中野で二男を交えて焼肉を食べた。
その際、何か頼むとワニのおもちゃが出てきた。
24本の歯があって、そのどれかを押すとワニに噛まれる。
噛まれると大当たりで、生ビールが一杯サービスされるとのことだった。
うちの二男が、無造作に一本の歯を押した。
あっさり噛まれて、ワニを持ってきた女子店員は、はじめて当たりを見たと言って大いに驚いた。
女子特有の嘘かもしれない。
しかし、わたしたちを盛り上げるのに一役買ってくれるのであるから、嘘も方便と言えるだろう。
そしてしばらく後、またワニのお出ましとなった。
めんどくさそうに二男が適当に一本選んでワニの歯を押した。
また噛まれた。
二回目にしてすでに慣れたのか今度はよけようともしなかった。
女子店員はあらとあんぐり口を開け、カウンターの向こうで寡黙に作業していた男子店員に目をやった。
その男子店員もこちらに視線を注いでいたから、彼もまた驚いたようであった。
男子店員が言うには、当たるのは24分の1の確率で当たることなど滅多にない。
だから二回連続なんていうのはあり得ないとのことだった。
それでわたしたち家族は確信したのだった。
やはりわたしたちはツイている。
実際、うちの家族はツイている。
挙げればキリがないほどツキに恵まれている。
ひとり気持ちよくお酒を飲みながら、ツイているエピソードについてニヤニヤ思い巡らせていると、長男からメッセージが入った。
これから上司と皇居ランだとのこと。
仕事後、ちょくちょく上司と皇居外周を走って、その後で飲みに出かける。
走るのはたまにであるが、飲みは毎日だという。
職場の真ん前が皇居というのがツイている。
そこを一緒に走ってくれる上司がいるのもツイている。
それに毎日誰かが飲みに誘ってくれるというのもツイている。
しかもそれだけでなく息子によれば、水曜と木曜の夜は社員食堂が飲み放題で食べ放題になるという。
なんということなのだ。
ツキまくっている。
やはりわたしたちはツイている。
そう確信を強め、勘定を済ませて店を出ると外には雨が降っていた。
幸い商店街には屋根があった。
通りに降る雨を横目に歩き、並びにあるコンビニにて傘を買い求めた。
だから商店街を抜けても濡れずに済んだ。
やはり間違いない。
わたしたちはツイている。