カウンセリングまでは受けたがやはり顔の手入れには関心を持てず、家内を残しわたしはひとりそこらをぶらつくことにした。
手入れに二時間以上かかるとのことだった。
その間、何をしよう。
マッサージを受けようか、カフェでお茶など飲んで過ごそうか。
あれこれ頭に浮かんだが、捻挫が完治したとの実感があったので徹底的に歩くことにした。
ランニング再開のリハビリとしてちょうどいい。
捻挫したのは沖縄へと向かう前々日、9月6日のことだった。
それから一ヶ月半もの時が経過し、初冬を思わせる冷たい風吹くソウルの地にてようやく元に戻った。
カンナム界隈をあてなく歩いた。
通りは広く道はキレイで市街地として目を見張った。
家族4人で訪れた十年前と比べてはるかに見栄えがよくなったと感じた。
歩いて歩いて多くの人とすれ違った。
街や人への親近感が芽生え、次第、雑踏に包み込まれる安堵感のようなものを覚えた。
温かなプールで泳ぐ遊泳感にも似た感覚に身をひたし、どんどこわたしはひたすら歩いた。
金曜の夕刻のくつろぎの中、仕事を終えて待ち合わせする人々を多く見かけた。
駅の入口あたりで人が待ち、誰かが階段を駆け上がって、互いがやあと顔を合わせる。
そこで見られる笑顔は、わたしたちが待ち合わせするときとなんら変わりがない。
その地続きを思って、わたしの胸には深い隣人愛のようなものが湧き上がった。
旅すれば愛が深まる。
だから人には旅が欠かせない。
つくづくそう感じた。