八尾を訪れたのは久々のことだった。
昔はしばしば足を運んだ。
いつしか足が遠のいて、そのまま年月が積み重なっていった。
いまではどう考えても縁遠い場所、ということになる。
この日、事務所についてあれこれ話す機会があった。
その会場がたまたま八尾のプリズムホールだった。
雨が依然として激しく降り続く夕刻、職員を一人伴い近鉄電車に乗り八尾の地に降り立った。
確かこのあたりに美味しいうなぎ屋があったはず。
歩きつつ探すが、ああ残念。
火曜は定休日だった。
まもなくプリズムホールに到着し、まだ時間があったから先に夕飯の店を決めることにした。
いい感じの寿司屋が見つかって、念のため予約の電話を入れ、8時前後に着く旨を伝えた。
これが仕事の動機づけでもあった。
終わったら寿司。
そう思うから頑張れる。
会場にてまずわたしが事務所の変遷や主要業務について話し、今が旬の業務については職員がプレゼンした。
幸い話の受けがよく、あれこれ名刺交換をしわたしはとても懐かしい気持ちになった。
この日集まってくれたのは、わたしが駆け出しの頃にもっぱら関わってきた業種の方々であった。
わたしは初心に返るような思いとなった。
うちの職員の担当先がひとつでも増えれば御の字。
そう考えて一生懸命になって援護射撃し、当初の想定よりいい感じで役割を果たすことができた。
立ち去るには名残り惜しい。
そんな雰囲気が醸成されていたが、いつまでも居残っていてはキリがない。
午後8時になったところで、では、とわたしたちは会場を後にした。
外へ出ると雨は小ぶりになっていた。
さて。
あたりを見回し傘も差さず場所の見当をつけながら歩いた。
まもなく店が見つかり、カウンター席に並んで座った。
選んだ店は大当たりだった。
大将の魚へのこだわりがず抜けていて、腕もまたずば抜けていた。
一品一品に唸りつつ、わたしは思った。
その気になって探せば、おいしい店はまだまだ見つかるのだった。
たまたま訪れた地で、素晴らしい店と出合う。
なんて豊かなことなのだろう。
大将は言った。
その日の寿司のラインナップがどうなるのか。
すべて魚との出合い次第。
だから毎日欠かさず市場に通う。
なるほど。
そこに人生にも通底するものを感じ、わたしは深く頷いた。
いい店に出合うと世界が広がる。
八尾を訪れる理由が生まれたのであるから、そう言っていいだろう。