南森町で仕事が1時過ぎに一段落し、気がつくと空腹だった。
昨日に増して更に冷え込んでいる。裾元から冷気が入り込んでくるかのようだ。
通りの向こうに「回転寿し」という緑の看板が見える。
おや、新しい店ができたのかと、冬眠前の熊みたいに一目散駆け寄って、しかし意気消沈。
看板の文字は「回転寿し」ではなく「部屋探し」であった。
砂漠をオアシスに見紛うような幻視だった。
「部屋探し」の看板前で茫々と立ち尽くしていると、立て続けに電話がかかってくる。
ともに見知らぬ発信番号なので身構えたが、どちらも仕事の依頼だった。
ミッションは突然にやってくる。
月末月初の繁忙が和らぎ、ぼちぼち歩き気分であったのも束の間、接地するトレッドミルの斜度が急傾斜となり、めくるめくハイテンションの日々にまた舞い戻らねばならない。
ハイテンションの日々と言えば、今週末から第29回兵庫県ラグビースクール大会が始まろうとしている。
我が家のフォワード君が所属する芦屋ラグビー5年は優勝候補の一角を占める。
総勢18チームのトーナメント、横綱伊丹が第一シード、続く芦屋が第二シードで、左右ブロックで一対を為す。
順当に行けば、左ブロックを勝ち上がってくる伊丹と右ブロックを勝ち進む芦屋が27日に決勝戦で相見える。
伊丹は抜きんでた選手数多く擁する兵庫県下NO1の強豪である。
今期、芦屋5年は交流戦などで伊丹相手に一勝もできていない。
もちろん決勝までも気は抜けない。
20日は三田戦となるだろうがこことも力は拮抗している。
ガッチャマン擁する三田に対し総力戦で粘り勝ちできるかどうか。
ここで敗れれば、伊丹への雪辱は叶わなくなる。
アホでふざけた我が愚息だが、ラグビーの試合に臨む時だけは、ド真剣な顔になる。
火事場の馬鹿力を出し続け、ゲームの流れの中、ボールを追ってポイントにガッツンガッツンぶつかり続ける。
ゆるんでヘラヘラした日頃の薄ら笑いは影を潜め、闘う面構え、憤怒の形相だ。
ラグビーほど闘う一体感を醸成させるスポーツはないのではないだろうか。
文字通り一丸となって相手チームに全力で立ち向かっていく。
比喩ではなく、本当に立ち向かってぶつかっていくのである。
冗談やおふざけの入り込む余地はない。
場面場面でウォーと鬨の声が上がり、突進しぶつかり合う。
ウカウカしてると味方にも敵にも吹っ飛ばされてしまう。
チームの一人一人が気持ちを一つにして随所随所で激しく立ち回る様は、感涙ものである。
そこまで感情入れ込むものだから、試合に負ければ表情が一気にほどけ、選手が泣いてしまうのも無理はない。
優劣を競う。
そのシンプルな要素が、遊びや趣味道楽と一線を画した鍛練の場としての機能を生成する。
シンプルな価値観で貫かれているからこそ、仲良しごっこでは決して知ることのできない厳しい摂理を体得できる。
勝つという目的を持たないチームでは得ることのできない強い連帯感と確固とした自立心が生まれる。
誰かが何とかしてくれる訳ではない、と知るだけでも、大きな学びだ。
さて、普段は気が優しくておっちょこちょい、おまけにKY気味の我が家のフォワード君だが、グランドでは大変身。
フォワードとしてポイントに素早く入り相手にプレッシャーかけどれだけ自チームのボールの支配につなげられるか。
ボールを支配すればハーフ以下、芦屋の超小学生級バックス勢が変幻自在縦に横に入り乱れて相手陣を翻弄するだろう。
闘うコツは、口から火を噴くこと。
腹の底から絞り出すように熱を帯びた呼気を竹笛吹くように静かに長く吐き出すのだ。
そして、呼気を徐々に短く早く刻み続ける。
ここで胸をごっつんごっつん叩くのもいい。
やがて、眼光鋭く鬼の形相となる。口元からはメラメラと火が放たれている。
五分五分の拮抗であれば、火を噴いた者に一気に趨勢が傾く。
少年時代に熱く火を噴けるなんて幸福だ。
その経験は至宝となる。
自分史に残るような熱い呼気を刻みまくれ。
追記
ちなみに、県大会初日は浜学園の公開テストだが、浜学園は大会会場近くにも校舎があるので、例の通り、ラグビー後に、テストも参戦だ。
試験中、スヤスヤ眠りたくなるだろうが、何とか「残り火」絞り出して、ちょっとは噴こう。