月曜、火曜とお酒を飲まず静かに過ごす夜、電話が鳴った。
息子からだった。
もう深夜という時刻であるから、一瞬身が凍った。
本を脇に置いて電話に出ると、明るい声が聞こえた。
全身の強張りはたちまちのうち溶けてほどけた。
いま、飲んだ帰りとのことだった。
この日息子はOB訪問で仲良くなった先輩に誘われた。
先輩とは別の商社に進むことになったが、落ち着けば飲もうとの約束を果たしてくれたのだった。
その先輩の慶應の同期も飲みの場に同席していた。
息子が就職する商社の方々であった。
小僧を囲んで先輩らがいろいろと親身になって教えてくれた。
世間で知られるより財閥系は給料がいいこと、駐在先選定の傾向と対策など。
その他、各種有用な情報がもたらされ、数々の先輩に恵まれて心強く、息子は大いに励まされた。
だから真夜中、そんな話を聞いてわたしも元気になった。
電話を終えて階下に降り、深夜のドラマに見入る家内にも話した。
もちろん家内も喜んだ。
慶應が掲げる「社中協力」という理念は絵空事ではなく実際に塾生塾員らの間に浸透し実益をもたらしている。
大学の入学式に卒後五〇周年を迎えたOB二千人が参加する時点でやはりそのつながりは普通ではなく、在校中も「社中協力」の精神があらゆる場面に行き渡っていたように思う。
そうであってこそ、活きた関係が末永く継続するのだろう。
そのように強靭な人間関係を背景に、息子が社会へと進み出る。
小僧時分からそこそこの給金をもらって、先々に渡って申し分ない。
息子が自ら糧を得る。
これほど親として心休まることはないだろう。
もうひとりの息子についても、就職するのかうちの事務所を拡大発展させるのか。
彼の自由に委ねるがそこそこの給金を得るのは時間の問題。
あと少し。
毎日が家内との楽しいおつかれさん会になる。